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COMMUNICATION
広告クリエイティブ支援
2025年2月18日、オプトは機械学習技術を用いたサービス企画・開発を手がけるRe Data Science株式会社と共同でクリエイティブ制作ソリューション:Murmuration: Sequential Generator(マーマレーション)による支援を開始しました。
このクリエイティブ制作ソリューションを開発した背景と想いについて、株式会社オプト アドAI統括室 阿部 一馬(以下、阿部)と、Re Data Science株式会社 代表取締役社長 高田 悠矢(以下、高田)がお話します。
3つのAIを活用した広告クリエイティブ制作ソリューション「Murmuration: Sequential Generator(マーマレーション)」とは
——— この商品の概要を教えてください。
阿部:Murmuration: Sequential Generator(マーマレーション)は「3つのAIでPDCAサイクルの質を上げ、高い広告効果を実現するクリエイティブ制作ソリューション」です。これはクリエイティブを「つくる」、つくった多くの候補に「順位を付ける」、配信後、次の制作の「方針を転換する」といったプロセスを一貫して支援するオールインワンのAIソリューションサービスです。
ダイレクト広告は、効果が高いクリエイティブを一度でもつくることができれば、長期に渡り効果が持続するわけではなく、効果の高いクリエイティブを“模索し続ける”ことが重要です。また、初手で効果の高いクリエイティブをつくることができなかった場合でも、適切にリカバーすることで、軌道修正を行うことが可能です。つまり、継続的に質の高いPDCAサイクルを実現することが求められるということです。Murmuration: Sequential Generatorはこれを3つのAIを用いることで実現します。
——— 3つのAIについて教えていただけますか?
阿部:「つくる」「順位を付ける」「方針を転換する」という3つのプロセスは、すべてAIでサポートしています。
より具体的に言えば、
- クリエイティブの大量生成
- 配信前の順位付け
- 配信実績に応じた方針転換
という3つのプロセスを実行するために、
- 生成AI
- 効果予測AI
- AIを活用した類似性判定機構
を用いています。

「Murmuration: Sequential Generator(マーマレーション)」を開発した背景
——— このような支援を考えた背景を教えていただけますか?
高田:私たちは、2023年にOpen CTR Predictor(https://open-ctr-predictor.di-opt.jp/lp/index.html)という広告効果を予測するためのマルチモーダルな独自AI機構を開発、ローンチしています。これは既に多くのクリエイティブが制作されている前提で、配信前にそれら候補の「順位を付ける」ためのAIです。
この開発と同時に、私たちは、Open CTR Predictorの開発で培った技術を応用し、Open CTR Predictorでは対応していなかった動画の効果予測機能や、よりきめ細やかな意思決定を可能にする多くの補足指標の出力を行う機構の開発を行い、更なる精度向上にも取り組みました。この成果物が、Murmuration: Sequential Generatorにおける「配信前の順位付け」として機能します。
「Open CTR Predictor」は私たちの自信作ではありますが、一方で、限界もあります。仮に世界中のすべての広告配信実績を手に入れることができ、無限に計算資源を利用することができたとしても、常にトレンドが変わる世の中の潮流と広告の効果という変数を完全に予測することは不可能です。この精度限界は、運用時にしばしば問題になります。
——— どのような問題になるのでしょうか?
高田:クリエイティブの大量生成を行い、効果予測による事前順位付けの結果に即して配信を行うというプロセスを一周終えて、結果として、十分に効果のよいクリエイティブを創出できなかった場合を考えましょう。これは、事前予測では十分によい効果が出ると判定されていたクリエイティブが、実際にはあまり効果がよくなかったケースと言い換えることもできます。
この場合、二周目は制作の方向性自体を変え、一周目とは異なる軸のデザインを採用する必要があります。しかし、大量生成を行う場合、二周目で制作した候補の一部が、すでに効果が悪いと判明している一周目で採用されたデザインと似てしまうケースが散見されるほか、再度、事前予測による選抜を行う際に、同じ効果予測AIを用いる以上、それらを採用してしまう傾向もあります。すなわち、同じ間違いを何度も繰り返してしまう可能性があるということです。
これを防ぐためには、二周目は、一周目で採用されたデザインと似ていない候補のみを制作する必要があります。AI技術を活用した類似性判定機構は、配信実績を踏まえて、この二周目以降の大量生成過程の制御を可能にするための仕組みと言えます。
クリエイティブの大量生成と、効果予測による事前順位付け、そして、配信実績を踏まえた、二周目以降の大量生成過程の制御までの全てのプロセスをオールインワンで担うことで、質の高いPDCAを実現したい、というのがMurmuration: Sequential Generatorの提供動機です。
「Murmuration: Sequential Generator(マーマレーション)」で変わる業務プロセス
── Murmuration: Sequential Generatorは、「つくる」「順位を付ける」「方針を転換する」という3つのプロセスを行えますが、デザイナーの業務はどのように変わりましたか?

阿部:いくつかの明確な変化があります。
まず、生成AIを武器として使いこなすことが必須となっています。生成AIを用いることで、単位時間あたりの制作量を飛躍的に増やすことが可能になりました。また、今まで実現が難しかったアイデアも、画像生成AIでは生成できるというメリットもあります。つまり、より幅広いクリエイティブのバリエーションを、同じ時間内でより多く提案することが可能になったと言えます。多くのデザイナーが、早期から積極的に生成AIを業務に取り入れてきたことは私たちの強みとなっています。
もう一つの重要な変化は、AIと切り離された純粋な人間としてのアイデアについても、効果予測AIやAIを活用した類似性判定機構が示す定量的な制約に晒されるという点です。わかりやすさを優先し、敢えてネガティブな表現を用いると、AIに人間が管理されている側面も少なからずあるということです。デザイナー側、あるいは人間側からみると、これは、これまでであれば採用されたアイデアや提案の一部が不採用になるということであり、業務の難易度は上がったと言えます。
もっとも、現時点では、生成AIを武器として使いこなす事が必須となっても、そしてAIが示す定量的な制約に晒されるなかでも、人間が自らアイデアを出すという創造的な活動は奪われていません。むしろ、こういった時代だからこそ、AIに負けない本物の創造性が際立つという側面もあるのかもしれません。

——— デザイナーの方々にとっては、負担も大きいですよね?
阿部:大変と言えば大変です。先ほどお伝えした通り、これまでであれば採用されたアイデアや提案の一部が、不採用になる場合もあり、業務の難易度は上がっています。捉え方によっては、負荷が増したと言えるかもしれません。しかし、これは「デザイナーは、クリエイティブを制作さえすればよい」という前提に立った際の発想です。当然ながら、デザイナーはクリエイティブの制作を通じて、広告主様に広告効果を提供し、売上や利益を増やすことに貢献する必要があります。実際に、十分な広告効果を出し、売上や利益を増やすことをゴールに据えるのであれば、本ソリューションで新たに生じた「大変さ」の意味合いは変わってきます。平坦な道を走るよりも坂道を走る方が「大変」ですが、その坂道が、目的地に着くための近道であるならば、坂道は平坦な道よりも「楽な」方法かもしれないということです。
——— Murmuration: Sequential Generatorの名前の由来を教えてください。
高田:Murmurationは、生物学等の分野で使われ「多くのムクドリが群れをなして舞う行動」を意味します。鳥の集団が飛ぶとき、突然、群れ全体で急旋回をすることがあります。同様に、クリエイティブの“集団”についても“群れ全体で急旋回をする”必要があります。広告主様にクリエイティブの“集団”を提供するとともに、必要に応じて “群れ全体を急旋回”させることができる、という意味を込めています。
Sequentialは日本語では逐次的、順次的と訳されます。本ソリューションは配信実績を踏まえて、次の大量生成過程を制御する、というプロセスを踏みます。配信するたびに、方針が変わる生成機構(Generator)ということで、Sequential Generatorという名前としました。
——— なぜムクドリに着目したのですか?
高田:ムクドリたちが群れをなして舞う姿は圧巻で、その仕組みは非常に興味深いものがあります。群れにリーダーがいて、目的地に向かって集団全体を先導しているというわけではなく、各個体が近くの6〜7羽の動きだけを見て、瞬時に自らの動きを調整しているとのことです。事前の計画や指示のない個々の自立した微調整が、システム全体としてみれば有機的で調和の取れたダイナミックな動きになるというこの仕組みを広告運用にも活用できないかと考えたことがきっかけです。
「Murmuration: Sequential Generator(マーマレーション)」によって期待される成果
——— 期待される効果・成果についてはいかがでしょうか?
高田:試算によれば、配信済みのクリエイティブが既に十分に高い効果を示している状況で、既視感の排除のみを行い、類似度を示す指標を一定以上の高さに維持した場合には、同キャンペーン内でのインプレッションシェアの向上が+6.6%pt程度(※1)見込まれるほか、配信済みのクリエイティブから十分によい効果を得られなかった状況で、類似度を下げ、同様の失敗を防ぐよう生成過程を制御した場合には、約29.3%(※2)のCPA(コンバージョン単価)の低下が見込まれます。

阿部:実運用においては、ローンチして数か月で、多くの お客様に導入いただき、何件もの好事例が生まれています。
——— さいごに、阿部さんのこれまでのキャリアと、現在取り組まれている人とAIとの共創という新たな挑戦に対する思いを教えてください。
阿部:私は専門学校でデザインの基礎を学んだ後、デザイン会社でキャリアをスタートしました。その後、2017年にオプトへ入社し、翌年にはデザイン部門の部長として沖縄コーラルクリエイティブオフィスに赴任、チームマネジメントを担うと同時に、自らもクリエイティブ制作の現場に立ち続けるなど、一貫してデザイナーとしての道を歩んできました。
しかし、2023年には自らの意思でデザイン部門を離れ、企画部門へと異動、現在は、このようなAIを活用したクリエイティブ制作サービスの立ち上げに取り組んでいます。
キャリアの転身をはかったのは、「デザイナーの仕事に将来性がない」と感じたからではありません。むしろ私は、「AIがデザイナーの仕事を奪う」という風潮に対して懐疑的でした。AIは人間の創造性を脅かす存在ではなく、むしろそれを拡張し、可能性を広げるためのパートナーであるべきだと考えています。AIを使うことでこそ、人間の生み出す本質的な価値が一層際立つ ── そう信じて、この領域への挑戦を決めました。
広告クリエイティブにおいて最も重要なのは、人の心を動かす力です。そのためには、ブランドに対する深い理解や、社会的・文化的文脈を踏まえた表現、そして感情への共感といった、人間ならではの知性と感性が不可欠です。
AIには、大量のデータを処理し、高速で多様なアウトプットを生成する力があります。しかし、そこから何を選び、どう意味づけ、どのように人に届けていくかといった思考は、今のところまだ人間にしかできない領域だと思います。今後も、人とAIとの共創によって、クリエイティブの本質的な価値を更に高めていきたいと考えています。

※1 過去にオプトがMeta ASCで配信した各ディスプレイ広告において「X:同キャンペーン内でのインプレッションシェアがトップ(かつ33%以上)の広告に対しての類似度の値」と「Y:当該類似度の同キャンペーン内での順位」について絞り込みを行った。「X>0.75」かつ「Yが3位以上」である場合のインプレッションシェアの平均は10.4%、「X≦0.75」もしくは「Yが4位以下」の場合では4.5%となり、当差分6%ptをインプレッションシェアの向上余地と見做した。
※2 過去にオプトがMeta ASCで配信し、コンバージョンが生まれたディスプレイ広告において「同キャンペーン内でのインプレッションシェアがトップの広告に対しての類似度の値」を、0.5より大きい値/0.5以下の値で層別に分解した場合のCPAは、約29.3%異なっており、この比率をCPAの向上余地としています。
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