CASE STUDY
事例紹介
デジタル広告やSNSマーケティングにおいて、成果の約49%(※1)はクリエイティブの質に左右されるといわれています。しかし、マルチチャネル化が進むなかで制作点数は増え続け、マーケティング現場は日々の業務に追われています。本来であれば顧客と継続的に向き合い、コミュニケーションを重ねながら関係を築いていくことが理想です。しかし現実には、多くの企業が“販促施策は回している”が、「顧客理解に基づいた知見」が組織に蓄積されていない。レポートは蓄積されるものの、「なぜ響いたのか」という知見は組織に残らず、次の施策へと十分に活かされていないケースも少なくありません。
「三井ショッピングパーク ららぽーと」や「三井アウトレットパーク」など、全国で多くの施設を運営する三井不動産商業マネジメント株式会社(以下、三井不動産商業マネジメント)も、同様の課題に直面していました。
この課題に対し、オプトはまずLINE公式アカウントのクリエイティブ制作においてAI活用の検証を実施。従来手法とのABテストではクリック率が最大1.3倍を記録し、AIクリエイティブの有効性を確認しました。
この結果を踏まえ、各施設の担当者自身がクリエイティブを制作できる個社特化型のマーケティングAIエージェント構築サービス「CRAIS+(クレイス・プラス)」の導入を提案。全国50を超える部署 (※2)での活用を見据えた内製化体制の構築を伴走支援しました。
本記事では、制作効率化の枠を超え、AIによって「エンドユーザーへの本質的な価値提供」をどう最大化していったのか、クリエイティブを“消費物”から“学習資産”へと転換し、LTV起点の循環構造を組織に実装したプロセスを、三井不動産商業マネジメント マーケティング推進部 マーケティング推進課 主任の高橋衛氏、マーケティング推進課 上田紅緒氏、三井アウトレットパーク入間オペレーションセンター 浅苧尚摩氏、株式会社オプト(以下、オプト) データテクノロジーコンサルティング部 チームマネージャー 松澤文子氏、AIソリューション開発部 塩谷圭甫氏に聞きました。
(※1)THE ROLE OF CREATIVE IN DIGITAL ADVERTISING EFFECTIVENESS | IAB Australia
(※2)2026年2月現在
制作点数は増えている。だが顧客理解は深まっているか
――デジタル広告や SNSマーケティングについて、どのような課題を抱えていたのでしょうか。
高橋氏:私たちが運営する商業施設には、年齢や趣味嗜好の異なる多様なお客さまがいらっしゃいます。本来、一人ひとりのお客さまに合わせたクリエイティブを制作し配信することが理想です。しかし、現実にはLINEやInstagramを始めとしたSNS配信、HPや施設内のポスターなど、チャネルごとに求められるクリエイティブの制作点数が急増していました。社内に専門のデザインチームがいるわけではないため、基本的には外部の広告代理店へ依頼しています。そのため、施策を強化し、よりきめ細かくお客さまへアプローチしようとすればするほど、制作コストと業務負荷が膨らみ、物理的な限界に突き当たってしまう点が、大きな課題でした。

AI導入で、クリエイティブが“制作物”から“学習データ”へ変わった実感
――そのような課題があるなかで、今回のプロジェクトはどのようにスタートしたのでしょうか。
松澤:三井不動産商業マネジメント株式会社さまとは、これまでも複数のプロジェクトをご一緒しています。その取り組みの一環で実施した「生成AI勉強会」をきっかけに、本プロジェクトがスタートしました。生成AIによって何ができるかを議論するなかで、まずはLINE公式アカウントのクリエイティブ制作から着手することになりました。オプトが生成AIを活用して複数パターンのクリエイティブを制作し、実際の複雑な販促業務に適用できるかを検証することから始めました。
高橋氏:検証では、オプトさんが生成AIを使って制作したクリエイティブと、従来手法で制作したクリエイティブとのABテストを実施しました。クリック率(CTR)やコンバージョン率(CVR)を比較した結果、ほとんどが同等、あるいはそれを上回る成果を上げ、なかには30%ほど改善したものもありました。この結果を見て、クオリティを妥協せずにお客さまにお届けできると確信が持てました。その後、この成果を踏まえ、各施設の担当者自身がクリエイティブ制作を行える専用ツールとして「CRAIS+」の開発へと進みました。
――社内から懸念などはありませんでしたか。
高橋氏:最初はクオリティの安定性や著作権、個人情報保護などのセキュリティ面で懸念の声もありました。ただ、事前検証で定量的な成果を示せたことは大きかったです。法務やシステム部門とも、どうすれば安全に価値創造に集中できるかという共通目的を持って丁寧に協議を重ね、一歩ずつ合意形成し、導入へと進めました。
――実際使ってみて、感触はどうだったでしょうか。
浅苧氏:最初はプロンプトの知識が浅く 、メンバー間にも、熱量や知識の差がありました。だからこそ、誰が使っても高いクオリティで作成できるよう、操作感や画像の精度などについて、かなり細かく踏み込んだフィードバックをさせていただきました。
松澤:現場の皆さんが迷わないよう、入力項目は極力シンプルにしました。一方で、その裏側には過去のクリエイティブとともに、私たちが今回の検証を通して培った「三井不動産商業マネジメントさまらしさ」をAIに学習させ、「三井不動産商業マネジメントさま専用のツール」として実装しています。また、浅苧さまや他の施設の方にも改善点のヒアリングを行い、現場で本当に使いやすい設計になるよう改善を重ねました。

高橋氏:その後の利用者のアンケートでは「継続して使いたい」という声が9割を超え、8割のメンバーが「時短に繋がった」と回答しています。外部との細かな調整や、イメージを形にするまでのタイムロスといった「もどかしさ」が削減された分、現場のスタッフが「次にお客さまにどんな驚きを届けようか」と考える、より本質的でクリエイティブな時間が増えていく。このメリットは、かなり大きいと思います。
――現在、どのようにツールを活用していますか。
浅苧氏:私が所属する「三井アウトレットパーク 入間」では、大規模なセールのためのクリエイティブは、従来通り広告代理店にお任せし、それ以外の日常的な施策において、今回のツールを活用しています。最も効果を感じているのは、Instagram上で毎月発信している「イベントカレンダー」のクリエイティブ制作です。お客さまに季節感を楽しんでいただきたい一方で、毎月外部へ依頼するにはコストも工数もかかります。今回のツールによって、自分たちの手で、タイムリーに季節感を表現したクリエイティブを継続的につくれるようになりました。

――作成したクリエイティブに対しての反応は、どうでしたでしょうか。
浅苧氏:PVやエンゲージメントも、従来の手法と比べて遜色ない成果が出ており、広告宣伝の担当チームからも、使い勝手がいいという話があがっています。また、「三井アウトレットパーク 多摩南大沢」では、25周年ロゴをこのツールで制作するという挑戦もあったと伺っています。周年ロゴという、施設にとって大切な象徴となるものを今回のツールを用いて自分たちで創り上げる決断ができたのは、「このツールなら、自分たちの想いを込めたクオリティを実現できる」という信頼があったからこそだと思います。

(三井アウトレットパーク入間のInstagram「イベントカレンダー」投稿例)
内製化による、顧客との関係資産の蓄積
――生成AIによるクリエイティブ制作の内製化は、大きな決断だと思います。なぜそれを決めたのでしょうか。
高橋氏:社内でも運用方法については二つの選択肢で議論がありました。一つは、自分たちで制作まで行う「内製化」。もう一つは、オプトさんを事務局として、ツールを活用しながら制作実務を担ってもらう方法です。最終的に内製化を選んだのは、「コストと時間を削減すること」という当初の目的を達成できると考えたからです。また、それ以上に大きかったのは、成果を最大化していくために、ノウハウやデータを自社内に資産として蓄積していきたいという想いです。部署を横断して、どのようなクリエイティブがお客さまの心に響いたのかを検証し、PDCAを回していく。その循環を生み出すことこそが、組織の中長期的な成長や、お客さまとの長期的な関係構築には必要だと判断しました。
松澤:私たちが目指すのは、顧客企業さまと、その先にいるエンドユーザーとの関係が長期的に続いていく状態をより良い顧客体験を通してつくることです。これまでは私たち代理店が実務を代行することで価値提供する形が主流でしたが、これからは企業さまご自身がノウハウを持ち、自ら実行できる状態をつくることが、より持続的な価値につながる時代だと感じています。
オプトがマーケティングのコンサルティング支援やインハウス(内製化)支援に注力しているのは、それが理由です。クリエイティブ制作やAI活用に関しても、私たちが代行するだけではなく、企業様ご自身が成果を生み出せる体制をつくることにこそ意味があると考えています。
今回の三井不動産商業マネジメントさまの例のように、施設の担当者さま自身が「自分たちらしさ」を込めたクリエイティブをつくり、お客さまと直接コミュニケーションを取れる状態をつくっていくことが、最も価値のある姿だと考えています。その実現のために、伴走することが私たちの役割です。

今回の取材を通じて見えてきたのは、「AIによる効率化」の成功事例ではありません。それは、テクノロジーによって人間が本来向き合うべき「創造性」を取り戻すための、確かな変革の記録です。
これからもコンテンツは増え続け、接点は複雑化していくと予想されます。そのなかで、企画・制作・配信・分析までを淀みなく循環させる構造を持つ企業こそが、真の意味でLTVを伸ばし続けられるのではないでしょうか。
生成AIは、単に制作効率を上げたのではありません。組織を、自ら問いを立て改善を繰り返す「学習する構造」へと変えたのです。そしてその構造こそが、エンドユーザーへ本質的な価値を提供し続ける「顧客志向経営」を持続可能にします。
オプトはこれからも、企業が自走し、永続的に成長し続けるための「仕組み」を共に創り上げるパートナーとして、LTVMの実装に併走し続けます。




