Interview
※本文は取材当時の情報です。
阿部一馬(2017年中途)は、「オプトのクリエイティブ領域をさらに強化する」ことをミッションに、2018年、デザイナーやクリエイターが多い沖縄コーラルクリエイティブオフィスへと赴任した。当初、3か月で東京本社に戻る予定だったが、既に滞在期間は1年半を超えている。自ら赴任期間の延長を申し出て、阿部が成し遂げたかったこととは?2019年下期MVP受賞者インタビューをお届けします。
赴任地で食らった大反発。行き詰まりから学んだ「歩み寄り」の精神
デザイン会社、広告代理店を経てオプトに入社した阿部は、即戦力のWeb広告デザイナーとして活躍。入社した年に中途入社部門の新人賞を受賞するなど、当初から期待の目が集まる存在でした。そんな阿部に転機が訪れたのは、入社から1年半が経ったころ。制作物のクオリティにとことんこだわる姿勢を買われ、沖縄のクリエイティブチームの能力開発のため、3か月にわたる長期出張を命じられたのです。当時の心境を、阿部はこのように話します。
「嬉しいとも嫌だとも思わず、素直に受けました。ただ、上司の『良い勉強になるよ』っていう言葉にどういう意図があるのかと疑問は感じていました。自分は教える立場なのになんで勉強になるんだろうって」
しかしそんな訝しい気持ちで出張の地、沖縄に着任した阿部を待っていたのは、手厳しい現実でした。
「行ったはいいものの、すぐに行き詰まってしまいました。今まで行っていた自分の指導方法が全く通用しなかったんです。僕に指導を受けるメンバーも自身の成長を感じられずにいました。誰もが僕のことを“東京から来た怖い人”くらいにしか思っていなかったと思います。あっという間に3か月が経ってしましました。しかし、何もできないまま東京に帰るわけにはいきません。上司にもう3か月、あと1年、時間が欲しいと泣きつき、『自分の何が間違っているのだろう』と、自問自答し続けました」
答えが出てきたのは、赴任から半年が経とうとするころ。阿部は、メンバーに対し、自分本位なコミュニケーションを取っていたことに気付いたのです。
「思えば、メンバーそれぞれに合わせたコミュニケーションができておらず、教え方も伝え方もワンパターン。結果として、僕のやり方に付いてこられない人もいたんです。一つの手法にとらわれて組織が機能しないという現実に反省しました。メンバーは経験もバラバラだし、勘どころも受け止め方も違う。厳しく教えて響かないのなら僕が歩み寄らなければ、と気持ちを改めたんです。以来、何事につけても、「組織が機能している状態」を意識するようになりました」
メンバーとのコミュニケーション量を増やし、それぞれの特性を把握することで、一人ひとりに適した指導を行うようにすると、メンバーは少しずつ、そして確実に力をつけていきました。
能力開発から組織マネジメントに、自らミッションを拡大
メンバーの能力開発に手応えを感じ始めた阿部はその後、もう一段階踏み込んだ仕事に臨むことになります。「『マネージャーが変わっても弱体化しない体制』を作り、『案件によって質が左右されない能力』を持った人たちが集まる組織をつくりたい」と上司に申し出て、託されたミッションをチームメンバーの能力開発から、組織のマネジメントへと自ら拡大したのです。
「クリエイティブチームを良くしていくには、デザインスキル以外も磨く必要があることに気付いたからです。僕が釣った魚を与え続けるのではなく、釣り方を教えてあげれば、その人は僕がいなくても食べていけるようになるし、他の人に釣り方を教えてあげられるようにもなります。僕がいなくても機能する状態を目指さなければならないと思ったのです」
メンバーの「考える力」を育てるために、阿部は自らの言葉でメンバーのマインドを変えていきました。
「たとえば、『私は内向的な性格だから、なかなか実行に移せない』と言う人がいますが、行動を起こさなかったからその性格が形成された、とも考えられると思うんですよね。ですので、性格を変えるよりも行動を変えるほうが簡単だと話し、チャレンジを促しています。また、『仕事で面倒なことはしたくない、楽をしたい』と思ったら、ちゃんとできる状態をつくることが一番楽。これは、逃げ続けていた方が結局大変になるという意味です。逃げずに勤勉でいること、誠実でいることが、自分を助ける一番の方法だと話しています」
また、伝える立場としては、大きく三つのことに心がけていると話します。
「一つ目は、事実を見ることです。デザインは表現の世界なので、修正が入ったりクライアントから厳しいことを言われたりすると、自分が否定されたと感じて目を背けたくなるときもあります。しかし、事実を直視しないことには課題を正しく認識できないし、改善策も打ち出せません。ですので、耳の痛いフィードバックや叱責でもちゃんと受け止めるようにしています。
二つ目は、手を抜かないこと。締め切りが迫ってくると、『これでいいや』って提出してしまうこともときにありますが、ここまで頑張ってきたのに最後の最後に『えい』って出してしまうのは、一番もったいない。最後までこだわりを持つことは、とても大事なことだと思っています。
三つ目は、一人ひとりに求めるレベルと今のレベルとのギャップをしっかり確認し合うこと。メンバーに少し難しいお題を投げるとき、あるべき姿を明示しないと、その人は自分のできるレベルのなかで結果を出そうとします。すると、そのレベルを少し超えた途端に『私がこの組織で学ぶことはもうない』というような感覚に陥ってしまう。そうなると、それ以上の成長が難しくなるので、どの水準を目指してほしいのかを必ず明らかにしています」
これら「阿部語録」とも言える言葉の裏には、阿部自身の苦い実体験がありました。阿部には、今後のキャリアを考え抜く前に転職をして後悔した過去があり、その経験から自分の考え方、自分との向き合い方を変えないことには、本質は何も変わらないことに気づいたと言います。メンバーには、同じ経験をしてほしくない。メンバーには、自分から気づいて自分から変わってほしい。そんな思いで接していたある日、阿部にとってうれしくなる言葉がメンバーから返ってきました。
「『今までできないと思い込んでいたことでも、やってみたらできました』『意外とできるってわかりました』って言葉が聞こえてきたんです。メンバーにとって必要だったのは、教えてくれる人よりも、困ったときにフォローしてくれる人だったと気づきました。僕が着任したことで、もともと備わっていた力が発揮されたのだと思います」
お互いが歩み寄れる組織を目指して
阿部の一連の改革や、それによって醸成された風土によって沖縄コーラルクリエイティブオフィスの社員定着率は高まり、沖縄県人材育成認定企業の認証を受けるまでに。沖縄で担うクリエイティブの制作量もそれまでの1.5倍にアップ。沖縄コーラルクリエイティブオフィスをより一層、会社に貢献する拠点へと成長させ、2019年下期MVPを獲得しました。
「担当役員からは、成果のレバレッジが高かったと講評をもらいました。確かに僕一人が頑張るよりも全員の力を合わせたほうが、確実に高いものが出せます。この点が評価されたことは、素直にうれしかったです。ただし、僕がどれだけ教えようが、環境を整えようが、最後の最後にプロ意識を発揮して頑張ったのはメンバー一人ひとり。僕は、それを代表してMVPを受賞したに過ぎません」
そう謙虚に話す阿部は、沖縄に行く前に上司に言われた「良い勉強になるよ」の意味を、いまではどう解釈しているのでしょう。
「いままでの僕の上司が、当時どんなことを考えてマネジメントをしていたのかを理解できたように思います。良いと思っていた部分はもちろん、当時折り合わないと思っていたことにも意味があった、と気づけたことが一番大きいです」
その上司らと肩を並べる立場になった阿部は、現在、自分の思い描く組織の実現に向け、日々取り組んでいます。
「僕が目指しているのは、『お互いが歩み寄れる組織』。ときとして議論は起こりますが、これは互いの正しさをぶつけ合っている場合がほとんど。ぶつけ合うだけでなく、その落としどころをみんなで探って、みんなで良い方向に持って行ける組織が理想です。だからこそ、どうすれば組織が機能するのかを忘れないことを大事にしています。
そして、意見が対立したときにジャッジをくだしてからが、マネジメントだと思っています。なぜなら全員が納得のいく方向に向いているときは、意思決定をする必要がないからです。ただ、全員が納得できる意思決定って、全員ができる水準に落としただけのことが往々にある。それでは求めるレベルを忘れていることと変わりません。求めるレベルまで持って行くことをハードルが高いと感じるメンバーもいるでしょう。『阿部さん、イケてない』って不満を言う人も出てくるかもしれない。ただ、ここでうやむやにせず、できなかった理由を説明して理解を得ることが、人に寄り添うマネジメントをするうえで大切なことだと思っています」
マネジメント能力は、誰もが持ち合わせておくべきスキル
いまでこそ部長として30数人のマネジメントを行う阿部ですが、オプトに入社するまでは後輩すらできたことがなかったと言います。さらには、マネジメントにもまったく興味が無く、むしろやりたくなかったと苦笑してみせるほど。しかし、いまとなっては、マネジメント能力やリーダーシップは、誰もが持ち合わせておくべきスキルと言い切ります。
「セルフマネジメント、タスク管理など、誰もが普段からマネジメント能力を使っています。このことに気づいたとき、管理職をやっていてよかったと思いました。
それから、プレイヤーのままがいいって言う人の大半が、以前の僕のように適性がないと思い込んでるだけだと思うんですよね。『私はリーダータイプじゃないから、サポーターがいいです』って。だけど、リーダーとサポーターは適性の違いではなく、動き方の違いであって、本来は双方ともに高い能力を求められるものである。自分よりも劣る人にサポートされても本当は困る。サポーターって、実は高い能力が求められるポジションですから。何が言いたいかというと、思い込みで自分の道を閉ざすのはもったいない。マネジメントに少しでも興味があるのなら、ぜひ目指してほしいと思います」
そう話す阿部の目指すべき道とは――
「必要とされる状態であり続けたい。どれだけ素晴らしい能力も、どれだけ素晴らしい製品も、必要とされていなければ価値はつきません。ですから、そのニーズを的確に見て、自分たちがどのポジショニングを取るかを考える必要があり、そこにどうメンバーを紐付けるのかを考えた組織運営を目指していきたいです」
組織の成長エンジンとして。その強いリーダーシップは、これからも沖縄コーラルクリエイティブオフィスを、オプトを、より良い組織へとけん引していくことでしょう。