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2019年5月25日(土)、同志社大学にて開催された「商業学会第 69 回 全国研究大会」にて、マーケティングマネジメント部 部長 園部武義が法政大学 新倉貴士教授、南山大学 堀田治准教授とともに「ブランドロイヤルティ構築のための指標把握に向けて」というテーマで学会報告を行いました。
この報告は、消費者行動論で著名な研究者、新倉教授が提唱するブランドロイヤルティの構造に関する理論に基づき、CRMプランニングとPDCAサイクルの設計を行なった事例を報告したものです。
本レポートでは、報告の内容を一部抜粋してご紹介いたします。
■従来のマーケティング手法での2つの課題
私は今、マーケティングのコンサルタントとして、EC、通販業種のデータドリブンマーケティングの支援をすることも多いのですが、その中で感じている課題がありました。
ダイレクトマーケティング業界は、データが大量にあるが故に、ユーザーの行動を促すマーケティングに特化しすぎていてユーザーの心理を考えるという点が少し弱い業界であったように思っていました。ユーザーに“買わせる”だけではなく、“幸せな関係をつくる”事が重要と考えており、その課題を解決する際に、新倉教授の消費者行動モデルを活用させていただいています。まずは私が感じていた2つの課題をお話ししたうえで、事例についてお話しさせていただきます。
■「氷山の一角問題」
EC/ 通販業界はデータが豊富に取得でき、ユーザー行動が見えやすい業界であるがゆえに、「氷山の一角である購買意図を汲み取り、購買させる」というマーケティングが非常に発達している業界といえると思います。
一方で、その下に隠れているユーザーの「態度」や「連想」については、あまり顧みられてきませんでした。
しかし、そもそも態度や連想が好ましくなければ、今は続けて購買しているユーザーもすぐにブランドスイッチしてしまう恐れがあります。
つまり、「見せかけのロイヤルティ」を生み出してしまうのではないか、という懸念です。
■マーケティング活動の変化
インターネット登場以前、マーケターは今よりも影響力を持っていました。人々はCMなどのマス広告を信じ、購買の根拠としていました。
しかし、インターネット上で容易に情報を取得できる現在では、商品レビューやSNSなどにおける口コミが消費者行動に大きな影響をあたえるようになってきました。
このような状況の中においてマーケターができることには、大きく2つあると考えます。
一つ目は、購買の後押しをすること。先ほどのお話でいうと、「氷山の一角」のマーケティングです。
そしてもう一つが、顧客体験を作り出すことです。ユーザーにブランドに関する良質な体験を提供することで、レビューやSNS上で好ましい口コミがうまれ、検討中ユーザーの購買にも好影響を与えることができるはずです。
■事例➀
ある通販会社様の事例をご紹介します。
こちらの企業はマーケティングオートメ—ションの導入により、購入やサイト来訪などの行動から購買意図を予測し、売り上げを上げる活動が成功していました。
しかし、アンケート調査でユーザーのブランドに対する態度を計測したところ、ヘビーユーザーであっても好意度が決して高くないことが明らかになったのです。
これは、他に似たようなサービスがあればブランドスイッチしてしまうユーザーを抱えていることを意味します。
そこで、ユーザーがどんなことを感じていて、どういうことを感じたらブランドやサービスに対する好意度が上がるのかということをアンケート結果から洗い出し、メッセージ開発をしました。
その効果はまずまずで、好意度の高いユーザーが配信後20%ほど増えるという結果が得られました。ただし、好意度は上がったものの、最初の調査から結果検証をするまでに3か月を要しており、PDCAのスピード感に課題が残りました。
■事例②
2つ目の事例紹介です。
こちらの会社様は「顧客接点を作って顧客体験を提供する取り組み」を行っており、良質な体験によって顧客の購買金額が向上するということは実証されていました。
しかし、ユーザーの「態度」は数値として見えにくく、短いスパンでPDCAを回すことは非常に難しいという課題がありました。
そこで、「何を伝えるべきか?」を設計するのと同時に、「態度変容をどのように評価するか」という課題を解決するためのプロジェクトをスタートさせることになりました。 プロジェクトにおいて実行されたのは大きく以下の3つの項目です。
➀ 購買行動の分析とアンケート調査によるユーザーのクラスタリング
② クラスタごとのコミュニケーション設計
③ 態度変容の定量的な評価手法の構築
➀では、自社ブランドのユーザーへアンケート調査を行い、ライフスタイルに関する質問項目からクラスタリングを行いました。さらに、クラスタごとに購買行動やサイト行動、ブラン ド連想やNPS(ネット・プロモーター・スコア)などの特徴を整理してペルソナ化をしました。
その結果、自社で想定していたユーザーとは異なるタイプのユーザーが多く存在し、その中にもヘビーユーザーがいることが分かりました。
そして、様々なライフスタイルを持ったユーザーが、それぞれの関わり方でブランドと向き合ってることが分かりました。
②では、ケラーのブランドエクイティピラミッドを念頭に置き、クラスタごとにロイヤルティの育成ルートを検討しました。
ここで意識したのは、クラスタごとにロイヤルティが醸成されていくルート、ゴールが違うことです。
すべてのユーザーをいわゆる「超ロイヤルユーザー」に育てることが正解ではない。それぞれのライフスタイルの中で、最も最適なブランドとのかかわり方をデザインすることが重要です。
③では、態度変容と相関の高い行動をデータ分析し 、定量的に態度変容を評価するための指標開発を行いました。
■今後の課題と展望
今後の課題としては、ブランドロイヤルティの構成レイヤーごとに対応する指標と統合的な指標の把握・開発が考えられます。
特に、連想や態度の変容を定量的データ(購買行動 や WEB 行動,口コミなど)から評価するための仕組みの開発が重要です。
それぞれの指標に裏打ちされた「ひとつの統合体としてのブランドロイヤルティ」の全体像が提示できてはじめて、経営層から現場までを巻き込んだマーケティングのPDCA活動が可能になるからです。
左から、当社マーケティングマネジメント部 部長 園部武義、法政大学 新倉貴士教授
以上