CASE STUDY
事例紹介
株式会社マイナビさまが運営する日本最大級の転職サイト「マイナビ転職」。転職活動の場は、かつての求人情報誌から転職サイトへと移り変わり、さらに現在はアプリケーション(以下、アプリ)が主戦場となりつつあります。マイナビ転職のアプリ開発の初期から携わってきたオプトは、先行する競合他社のアプリに対して、どのような支援を行ったのでしょうか。株式会社マイナビ(以下、マイナビさま)デジタルテクノロジー戦略本部 CXマーケティング統括本部 ブランドコミュニケーション第2統括部 ブランドコミュニケーション1部 転職メディアプロモーション課 課長 松村 有理沙氏(以下、松村氏)とオプト マーケティング・アセット本部 執行役員:VP 岩本 智裕(以下、岩本)が、データ計測の重要性についてお話します。
アプリによる転職活動が当たり前の時代へ
――貴社が運営する転職サイトのマイナビ転職が抱えていた課題について教えてください。
松村:私が入社した2018年頃は、競合がWebサイトからアプリに移行する過渡期でした。マイナビ転職もアプリはリリースしていましたが、競合他社と比べると後発だったこともあり、追いかける立ち位置でした。しかし、当時はまだ競合他社を含め、Webサイトが主流だったこともあり、アプリのプロモーションに本格的に取り組めていない状況でした。
岩本:当時の転職市場は、アプリよりもWebサイトが主流でしたが、アルバイトの求人サイトが軒並みアプリに移行していたため、転職市場にも同じ波が来るだろうと予測していました。私は、オプトに入社する前から、オプトのアプリ事業をサポートしていまして、マイナビさまとは、その頃からのお付き合いです。私がオプトに入社した後も、マイナビさまとのお付き合いが続いていたため、そこから本格的にアプリのプロモーションについてご相談を受けるようになりました。
――アプリのプロモーションに取り組んでいきたいと考えていたマイナビさまに対して、オプトが取り組んだ施策について教えてください。
岩本:当時、マイナビ転職はWebサイトでの展開がメインだったため、まずはWebサイトとアプリの違いをマイナビさまの社員の皆さまに説明する機会を設けました。アプリにはアプリの効果を計測する専用のツールが必要であり、KPI(重要業績評価指数)もWebサイトとは違う。そういった知識を皆さんにお伝えしました。
――マイナビ転職のアプリは、Webサイトと比べてどのような差異を持たせたのでしょうか? ユーザー層の違いも含めて教えてください。
松村:マイナビ転職のWebサイトは、応募書類の作り方や面接対策などを紹介している転職ガイドや、転職者のあらゆるお悩みに転職のプロが回答する転職Q&Aなど、求人情報以外のコンテンツも充実していますが、アプリは転職検討中といった、顕在層が多く使う理由から求人検索に特化しています。アルバイトの求人検索だけでなく、就職活動や転職活動においてもアプリのみを使用する世代が増えていると感じるため、いずれはアプリが就職・転職市場におけるメインのツールになると考えています。
岩本:当たり前のように、アプリを活用して就職・転職活動をしてきた世代が、数年後にWebサイトを使うようになるとは考えにくいですからね。Webサイトとアプリのニーズの違いでとして、Webサイトは明確な志望先がある方が利用される印象があり、アプリは「エンジニアになりたい」「年収はこれくらいがいい」といった希望条件はあるが、明確な志望先がないユーザーが多い印象です。
松村:マイナビ転職を利用されるユーザーさまは、Webサイト・アプリともに明確な希望条件をお持ちの方が少ないという印象です。そのような方に向けて、閲覧履歴から割り出したおすすめの求人情報をプッシュ通知するなど、新たな出会いを創出することもあります。現在のユーザー層は、若年層の利用が多いですが、日本全体の高齢化を考えると今後は間口を広げて、プロモーションを行う必要があると捉えています。
計測環境が変わるなか、長期的な視点でデータに向き合う
――アプリの開発にあたって工夫した点を教えてください。
岩本:マイナビ転職のアプリは、マーケティングのために開発されたアプリです。マーケティングに寄与するアプリの開発が求められるなか、当時、マイナビさまの社内にはマーケティングに精通したアプリの開発者が少ない状況でした。そこでマイナビさまがご手配された開発チームのメンバーを対象に、アプリマーケティングの勉強会を開き、AARRRモデル(※1)などのアプリにおけるKPIや、アプリのソフトウェア開発キットなどの理解を深めました。一方、マイナビさまの社員の皆さまには、マーケティングに限らず、良いアプリをつくるためのチーム構築の方法や、プロジェクトの進め方などの勉強会を開き、アプリマーケティングと開発の知識について双方が分かる状態にして、ワンチームで取り組める環境を整えました。
もう一つは、適切にデータと向き合うために計測ツールを導入したことです。制作するアプリがマイナビ転職のマーケティング活動にどのように寄与しているのかを証明するには、データを集め、分析し、適切なアウトプットにつなげる必要があります。私はこれまでさまざまなアプリ開発に携わってきましたが、マーケティングの観点からデータに向き合いながらつくられたアプリはほとんどありませんでした。そこで、変化の激しい計測環境にも対応できるよう、長期的にデータと向き合える、カスタマイズ性を持たせたアプリの設計にしています。
大切なのは、長期的な視点でデータと向き合うことです。例えば、5年前のとあるデータを参照する必要が出てきたとき、該当するデータを紐づけられる企業は多くはないでしょう。日本のすべての企業が長期的な視点でデータと向き合うことができれば、世の中やユーザーのニーズにあったマーケティングが可能となります。
私たちが提供するONE’s Dataを活用し、データと向き合うことで、より長期的な視点でのマーケティング活動を可能にします。
(※1)AARRRモデル:商品・サービスの成長を5段階にわけるフレームワーク。Acquisition(獲得)、Activation(活性化)、Retention(継続)、Referral(紹介)、Revenue(収益)の5段階に分解・可視化し、ビジネスステージの確認や、課題抽出に用いられる手法。
――近年、個人情報保護の観点から、データの取り扱いが以前に比べて重要視されています。その変化への対応はいかがでしょうか?
松村:以前、岩本さんからいただいた忘れられないアドバイスがあります。それは「アプリマーケティングでは、データのみに頼るのではなく、他の指標もふまえながらユーザーと向き合うことが大切」ということです。Webサイトのデータは、アクセス解析ツールを活用することで適切にデータの計測ができますが、アプリは、事業者によるアプリのアップデートだけでなく、Appleによる開発者向けイベントのWWDC(※2)にて発表される大型アップデートの影響などから、計測環境の変化が大きく、データをもとに戦略を立てることが難しくなってきています。データのみでユーザーのすべてを理解しようとするのではなく、データから見えない部分は他の指標もいれることがユーザーと向き合ううえでは大切だと。このアドバイスを心に留めて、日々データと向き合うようになりました。
(※2)WWDC:Apple Worldwide Developers Conferenceの略称。毎年Appleが開催している開発者向けのイベント。
マイナビ転職の使命を考え、見込み顧客以外の層にもアプローチ
岩本:Googleが強い影響力を持つWebの世界と異なり、アプリはAppleが大きな影響力を持っています。Appleは、IDFA(※3)利用制限など個人情報保護に力を入れている影響もあり、アプリにおいても非常に変化の激しい環境下にあります。オプトは、データ計測において、日本で最も詳しい会社のうちの一つであるという自負があります。しかし、特にデジタルマーケティングの世界は、すべてが可視化されるあまり、間違った方向や、本当に取り組む必要のあることとは異なる方向に進んでしまうリスクもあります。
デジタルマーケティングでよく用いられるROAS(※4)運用などは、「できるだけ費用を抑えつつLTVが高くなるポテンシャルがある方との接点をつくる」ことです。この点だけを求めるなら、もとから転職意欲の高い方に焦点を絞りアプローチすれば良いわけです。しかし、マイナビ転職の「人材の流動性を高める」という使命を考えると、例えば「今の仕事が、本当に自分に合っているのか分からず悩んでいる層」にもアプローチする必要が出てくるため、ROASを追いすぎてしまうと、本来取り組みたかったマーケティングとはかけ離れてしまいます。マイナビ転職というサービスが本当の意味でユーザーから求められるサービスにしようとすればするほど、従来よりもざっくりとした計測が求められるシーンが出てきます。
(※3)IDFA:Identifier for Advertisersの略称。Appleがユーザーの端末にランダムに割り当てるデバイスIDのこと。IDを活用すると、カスタマイズした広告を配信することができる。
(※4)ROAS:広告費に対して、どれだけ売上を得られたかを測る指標のこと。
――従来は見込み顧客に焦点を絞り、アプローチしていたのが、アプリではより幅広い視点を持つ必要があると。
松村:CPA(コンバージョン単価)が高くなりがちな準顕在層・潜在層の方たちは、これまで敬遠しがちでした。どうしても会員登録や求人の応募につながりにくいので、予算を割きにくい。しかし、中長期の視点で見ると、より裾野を広げる必要が出てきますし、すでにそのための準備も進めています。Webサイトと比べたときのアプリの利点は、会員登録をしなくても利用可能なことです。もちろんインストール後に会員登録をしていただけたら嬉しいですが、ひとまずインストールだけでもアプリを使えるようになるため、ユーザーとの最初の接点をつくるのがアプリの役割と捉えています。
セカンドオピニオンとして伴走するオプト
――オプトの支援を受けて、得られた結果や生じた変化について教えてください。
松村:私たちマイナビ転職のプロモーションチームには、分析チームがいないため、そこを岩本さんに支援いただいています。レポートの作成や分析をお願いしたり、具体的なアドバイスやデジタルマーケターの心得なども教えていただいたりしました。広い視点から業界の動向について教えていただけるのもありがたいですね。データの計測についても「今進んでいる方向は正しいのか?」「この選択で合っているのか?」といった第三者目線で分析をいただいています。
岩本:オプトとしては、マーケティングに向き合い続ける「人」が重要だと考えています。私たちは、数多くの顧客企業さまと向き合っているからこそ、幅広い視点でアドバイスができるという自負があります。今後もデータの計測環境は複雑化していくと予想されるため、セカンドオピニオンとして私たちの計測チームを活用いただければと思います。
――最後に、今後オプトに期待することや、理想の関係性についてお聞かせください。
松村:現状の支援に加えて、今後はより全体感を見据えた分析もお願いしたいですね。今はWebサイトとアプリの分析や評価が分断されていますが、双方を活用するユーザーさまもいらっしゃるため、横断的な分析や評価ができると非常に助かります。
岩本:今後はWebサイトとアプリに加えて、LINEの分析も連動させたマーケティングを実現させたいです。これからもオプトは、変化の激しい計測環境に対応し続けるため、長期的な視点でデータと向き合い、20年、30年と長期的なマーケティングパートナーとしてお客さまに寄り添いたいと考えています。実現に向けて、デジタルマーケティングに精通した企業として何をするべきなのか。常に問い続けながらマイナビさまを先導し続けていきます。