UNSUNG HEROES

中の人

常に柔軟に、領域横断できる人でありたい。OOH、4マスで経験を積んだ私が考えるクリエイティブディレクターのあり方とは

UNSUNG HEROES

「これからはじまるのは総合格闘技だ」
「オレ達は急に新しいルールを受け入れられない」
「オレ達はオレ達のプライドに殺される」

大手広告代理を舞台にした漫画『左利きのエレン』の登場人物であり、クリエイティブディレクターの神谷雄介氏は、自身の仕事についてそう語りました。

デジタルテクノロジーが発達し、情報伝達の手段は増え、広告代理店に求められる役割も日々変化しています。これまでの成功体験を捨てられなかったり、一つの手段にこだわりすぎてしまったりすると、クリエイティブディレクターとして価値を発揮するのは難しいと言えるでしょう。だからこそデジタル領域をはじめ、様々な手法を知り、案件ごとに最適な手段を選べるようになりたい。そう考えてはいるものの、目の前の業務に追われて、具体的な行動に移せていない人も少なからずいるのではないでしょうか。

オプトでクリエイティブディレクターを務める安田裕子さんは、OOHや新聞、テレビ、雑誌、ラジオなどの4マス広告、デジタル広告とそれぞれの領域を経験しています。案件ごとに最適な手法を選び、企業のニーズに応えてきた結果、パートナー側から逆指名される機会も多いそうです。

そんな安田さんに、これからのクリエイティブディレクターのあり方をお聞きしました。


UNSUNG HEROES

  • 安田 裕子

    ブランドクリエイティブ部
    新卒でOOHを取り扱う広告代理店に入社。2008年にオプト中途入社。メディアプランナーを経て、総合広告代理店に出向する。デジタル領域の営業担当として、ヘルスケアブランド・映画配給会社などを担当。2014年帰任後は、クリエイティブディレクターとして各社のプロモーションを担当。2016年上期には、全社表彰にてMVPを受賞。2019年下期全社表彰にて、準MVPを受賞。

 

「クリエイティブディレクター」はなくなるかもしれない 

 
ライター岡本

クリエイティブディレクターとして安田さんがどのような仕事をされているか教えてもらえますか?

安田

主に女性向けヘルスケア商品、化粧品のデジタルプロモーションを担当しています。想定顧客層である20代の認知獲得に適したデジタル領域における接点を見極め、最短で広告の効果を最大化できる戦略を設計しているんです。
 

接点は複数あるので、各接点に合わせたクリエイティブ制作やPR、キャンペーン企画の立案、広告プランニング、SNS運用など多くの領域を横断して見ています。それぞれの分野の専門メンバーとやりとりをしながら、クライアントが顧客に伝えたいメッセージと実施する施策が一貫しているかどうかやクリエイティブのクオリティ、施策の実施タイミングなどを管理しています。 

ライター岡本

想像していたクリエイティブディレクターの仕事よりも安田さんの仕事が多岐に渡っていて驚きました。

安田

ありがとうございます。でも、私はこの先「クリエイティブディレクター」という職種はなくなると思うんです。 

ライター岡本

どういうことでしょう?

安田

正確には、従来のクリエイティブディレクターがなくなるという表現が正しいですね。グラフィックや映像といったクリエイティブの完成度を高めるだけに特化したクリエイティブディレクターは、圧倒的なカリスマ性が無いと、企業や顧客に安定した価値を提供しづらくなっていると思っていて。 

ライター岡本

そうすると、新しいタイプのクリエイティブディレクターが生まれてくるのでしょうか?

安田

そう考えています。デジタル領域の広告が生まれてから、顧客に情報を届ける手段が増えました。その影響もあってか世の中には多くの情報が溢れかえっている。企業が伝えたい情報を届けたい層にちゃんと受け取ってもらうには、様々な手法を組み合わせながらアプローチする必要があります。

 

たとえば、SNSのタイムラインで流れてきた広告を見た後に、電車内や買い物途中の屋外看板でも見てもらうことでやっと認知してもらうなど。一つの手段でアプローチするのでは限界があるんです。これだけ手段が多様な時代は前例がありません。これからのクリエイティブディレクターは、新しく生まれる手法を把握し、適切に組み合わせて顧客とコミュニケーションしなければならないと考えています。 

ライター岡本

たしかに社会の変化を考えると、そうですよね…。ですが、複数の手段を理解して、適切な形で施策に落とし込むのは難しいのではないでしょうか?

安田

それぞれの領域の経験があると、組み合わせられると思います。私自身、OOHや新聞、テレビ、雑誌、ラジオ、デジタル広告など、領域横断的に経験を積んできたことが、今の仕事に活かされているんです。 

OOHを扱う代理店から、デジタルに強みをもつオプトへ
 

ライター岡本

これまで色々な領域を経験されてきたとのことですが、どのような仕事をされていたのでしょうか。

安田

オプトに入社する前は、OOHを取り扱う代理店で営業をしていました。OOHの種類は、駅や車両内、ビルの壁面、市内バスの外面に至るまで様々です。OOHの仕事って、顧客目線が磨かれるんですよ。
 

広告を掲載する場所の近くにどんな人が通るのか、歩く時の目線はどこにあるのか、適切に情報を伝えるためにどんなデザインにすべきか。日々の仕事の中で、顧客の目線に立って考える機会が多いんです。顧客のことを想像して、クライアントに提案する日々を過ごしていました。 

ライター岡本

顧客の目線を考えながら、働かれていたのですね。

安田

はい。ただ、デジタル領域の広告がすごく伸びている時期に、生活のなかで触れるデジタル広告が増えていると感じていました。今、人々が生活の中で触れているのは、OOHよりもデジタル広告なのではないか、そう考えたんです。
 

このままOHHの領域でプロフェッショナルを目指すのか。それとも、これから伸びていくであろうデジタル広告の領域に飛び込むのか悩みました。それが、OOHの会社で働きはじめて3年、2008年を過ぎた頃です。迷った結果、若いうちに新たな分野に挑戦したい気持ちがあり、転職しようと決めました。 

ライター岡本

それでオプトに転職されたんですね。転職先としてオプトを選んだのはなぜだったのでしょう。

安田

仕事を通じて知り合ったオプトの社員が、成長に貪欲で、真面目に仕事に向き合う方だったんです。同世代の人が、主体的にプロジェクトを動かしていく姿勢を目の当たりにしました。「私もこんな風に働いてみたい」と率直に思い転職を決意したんです。 

未知の領域への挑戦。試行錯誤して得たデジタル広告の知識と経験
 

ライター岡本

オプト入社後は、どのような仕事を?

安田

最初に配属されたのは、新聞やテレビ、雑誌、ラジオといった4マスとデジタル技術をかけ合わせて広告を提案するクロスメディア部でした。ここでOOHとは異なる、多くの人々との接点であるメディアについての知識を身につけられたんです。
 

顧客が求める成果を達成するために、4マスからデジタル広告まで、どの広告手法を用いるべきか幅広く検討する。現場でそれぞれの手法の特性を学べました。
 

たとえば、テレビは多くの人にリーチできますが、届けられる層が絞れないので、メッセージの打ち出し方が難しいんです。ラジオはコストが低くリスナーに合わせたターゲティングもしやすい。しかし、どうしてもリーチできる数は少なくなってしまう。一つの広告手法が優れているということではなく、それぞれのメリットやデメリットを把握して、扱い方を身につけることができました。 

ライター岡本

では入社前に思い描いていたデジタル領域でのキャリアを順調にスタートできたのですね。

安田

そうですね。ただ、少しずつ慣れてきた頃「もっと、オプトのコアビジネスで活躍したい」「デジタル広告に詳しくなりたい」という気持ちが大きくなっていました。
 

4マスとデジタル広告の融合を掲げるクロスメディア部では、横断的な知識は身につくものの、一つの領域に特化した知識を身につけるのは難しくて。
 

オプトの強みであるデジタル広告について、より専門的な経験を積みたいと思うようになっていったんです。そこで、メディアコンサル部に異動願いを出しました。 

ライター岡本

メディアコンサル部では、どのような仕事を経験されたんですか?

安田

クライアントのメディアプランニングを行う部署で、数あるデジタル広告のメニューからお客様に合う施策を提案する仕事をしました。
 

デジタル広告は取得できるデータをもとに施策の効果を分析し、常に改善を繰り返していきます。デジタルならではのデータを扱った経験はなかったので、最初のうちは、専門用語が飛び交う会議で話に入っていけず、冷や汗が止まりませんでした(笑)。とはいえ、時間が経てばできることも増えていきます。1年ほどで、徐々にやりがいを感じられるようになっていました。デジタル広告について知れば知るほど面白く、やってみたいことが増えていきました。色々挑戦してみたくて、ワクワクする気持ちが強くなっていったんです。
 

そのタイミングで、大手広告代理店に出向できる制度を知りました。デジタル広告の可能性を新しいフィールドで試したい、そんな思いで立候補。2011年から出向することが決まりました。 

ライター岡本

出向先ではどのような業務を担当されたのですか?

安田

営業として、マス広告など複数の領域を活用する案件においてデジタル施策を提案する業務を担当しました。はじめて、デジタル広告のみならず、複数の広告手法を組み合わせた戦略設計に深く携わりました。
 

印象に残っているのは、大手ヘルスケア企業のデジタル広告のコンペを担当したとき。出向先の先輩が信頼して任せてくれたのだし、オプトの代表として出向しているのだから失敗はできない。どうすればクライアントの課題を広告で解決できるのか考え抜きました。
 

デジタル広告のコンペではあるものの、デジタルだけでは情報を届けたい層に届きづらく、課題解決の手段としても弱い。そう考えた私は、デジタル広告のみという枠を外し、ラジオ企画など非デジタル領域の広告も組み合わせて提案。無事受注が決まりました。 

ライター岡本

あくまでクライアントの課題が解決できるかどうかの視点を優先に立案したのですね。

安田

そうなんです。領域を限定して施策を提案するのではなく、クライアントの課題を解決するための最適な選択を考え、戦略を立案する。その価値を実感できました。この経験は現在の仕事にも強く活かされています。 

自分の経験を活かせる自分らしいクリエイティブディレクターへ
 

ライター岡本

すべての経験が現在の仕事につながっているのですね。

安田

そうなんです。オプトに帰任し、クリエイティブディレクターの肩書きをいただいた後も、これまでの経験に助けられています。どんなときも、企業が伝えたいメッセージを最適な手段で生活者に届けることを考える姿勢が身につきました。
 

たとえ、クライアントから「デジタル広告を出したい」と言われたとしても、「本当にデジタル広告でやるべきなのか」は必ず検討します。目的達成のためには、他の広告手法を選ぶか、横断的に活用した方がいい場合もあるからです。 

ライター岡本

領域横断的に手法を組み合わせるには、新しい手法を学び続けることも必要な気がします。安田さんはどのように新たな知識を得ているのでしょうか?

安田

「今期は、この手法に注目しよう」と、特に興味があるものをいくつかピックアップし、情報収集をしています。一定期間で深掘りするテーマを決めて常にアンテナを張っておくイメージ。クライアントの課題解決に活用できないかを常に考えるようにしているんです。 

ライター岡本

期間ごとに深掘りするテーマを決めて、実践に使えるように学びを定着させていくのですね。

安田

そうです。また、最適な戦略を描くためには、手法を知るだけではなく、生活者のインサイトをより深く把握する必要もあると考えています。
 

広告は、突き詰めれば生活者とのコミュニケーションです。手法に関する知識だけあっても、生活者が何を望んでいるかが分からなければ意味がないんですよね。 

ライター岡本

安田さんはどのようにしてインサイトを掴む感覚を養っているのでしょうか?

安田

常に生活者の行動や背景を想像します。OOHの仕事をしていたとき、4マスの仕事をしていたとき、デジタル広告の仕事をしていたとき。どの場面でも、「生活者はどんな気持ちでこのチャネルに接するのだろうか」を考えていました。
 

もちろん、自分自身のインプットも欠かせません。休みの日には、小説を読んだり、映画を観にいったりと、なるべく仕事に関係のないインプットを心がけています。今、流行しているものからインサイトを分析できますし、フィクションの登場人物たちの行動の意図や背景を想像することで、様々な人の心の動きを想像する練習になるんです。 

ライター岡本

顧客視点の想像を日常生活でも意識されているのですね。

安田

インサイトを考えるための機会はあちらこちらにあります。日常の雑談のなかにインサイトが垣間見える瞬間もあるんですよ。たとえば、最近通いはじめた料理教室で、一緒に料理を作る生徒さんたちと「通い始めた理由」について話していたんです。
 

ある方は「一人暮らしをしている息子が帰省したら、美味しい料理を作ってあげたい」と。また、ある方は「子育て中の息抜きとして通い始めた」と話していました。誰かのための場合もあれば、自分のための場合もある。同じ行動をとっていても年代や置かれている状況によって、動機が違う。当たり前のように感じられるかもしれませんが、こうした生の声を知ると、インサイトをより想像しやすくなります。 

ライター岡本

安田さんのお話を聞いて、目の前にある仕事や出来事を観察し、主体的に学びを探す姿勢がクリエイティブディレクターには必要なのではと思いました。

安田

そうかもしれません。発想を枯渇させないためにも、目の前のことから何を学べるか、これまで学んだことが目の前にどう活かせるのかの視点は常に持っていたいですね。目まぐるしく変化が生まれている時代だからこそ、クリエイティブディレクターに限らず、どんな人にとっても大切な事だと思うんです。そうすることで、その人の経験を活かした、その人らしい形で働いていけるのではないかと思っています。 

Written by岡本実希

Editor木村和博

Photographer佐坂和也

Deskcheckモリジュンヤ

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