UNSUNG HEROES

実績紹介

成功の鍵は”嘘っぽさ”をなくしたこと。キリン「社会人1年目のあなたへ」に見る共感されるブランディング施策とは

UNSUNG HEROES

今後の消費行動の中心となるであろう若者世代へのブランディング施策は、企業において重要な課題となりつつあります。

しかしブランディングの設計や実施を担う担当者の中には、

「若者の考えや気持ちがよく分からない」

「InstagramやTwitter、TikTokなど若者にリーチするSNSはたくさんあるけれど、一体どれを使ったらいいのだろう」

と頭を抱える方も多いのではないでしょうか。

キリンホールディングスが2019年春に行ったブランディング施策「交差点プロジェクト 社会人1年目のあなたへ」は、若者の企業への好意度形成に成功した好事例の一つです。その一貫で実施したnoteコンテストでは3,000名以上から投稿が集まり、累計60万PVを達成。後日行われたトークイベントでもアンケートで「キリンという企業を好きになった」と答える方が97%を超えるなど大きな反響を呼びました。

プロジェクトの成功要因はどこにあったのか。キリンホールディングスの岩永さんと、オプトでプロジェクトを担当した竹本さん、清水さん、今城さんに、若い世代を巻き込み、企業ブランディングにつながる施策において大切にすべきことを伺います。

若年層の好意度形成が課題だった
 

ライター岡本

普段からどのようにコーポレートブランディングに関わっているのか、またその中で抱いていた課題感を教えてください。

岩永

私は企業ブランドの戦略策定や施策の実行を担当しています。お客様にとってキリングループ(以下、キリン)がより魅力的なブランドとなり、好きになっていただくために何をすべきかを日々考えています。
 

キリンはメーカーなので商品を通して企業を好きになっていただくことが多いのですが、商品だけではリーチできないお客様へ向けては、企業活動などを通したブランディングを展開しています。
 

近年は、若年層で酒離れが進んでいることもあり、他の世代と比べて20代におけるキリンへの好意度の低さが課題となっていました。そこで今回、若年層向けのブランディング施策を行おうと考えたのです。 

ライター岡本

若年層に向けたブランディング施策の具体的な内容はどのように考えていったのでしょうか。

岩永

まず、施策において外せないポイントを社内のブランディングチームで話し合いました。そこで、浮かび上がったキーワードが「密度の濃いコミュニケーション」です。
 

例えば、キリンの工場見学に参加した方は「キリンが好きになりました」と感想をくださることが多くて。それを目の当たりにしてきたからこそ、密度の濃いコミュニケーションが企業ブランディングの鍵になる感覚はチーム全員が持っていたんですよね。
 

また、もう一つのキーワードは「日常の特別な瞬間に寄り添う」です。成人式や卒業式のような大々的なイベントでなくても、一人ひとりにとって日常の特別な瞬間がきっとあるはずです。意識をしなければ通り過ぎてしまいそうな、でも、後から振り返ると大切な思い出の1ページになるような。そんな日常の特別な瞬間にキリンが寄り添いたい。そうすることによって、より深い関係性を一人ひとりと作れるのではないかと社内で話し合いました。 

キリンホールディングス株式会社 岩永綾乃さん

ライター岡本

密度の濃いコミュニケーションを通じて、日常の特別な瞬間に寄り添う。これが若年層に向けた企業ブランディング施策の軸となったわけですね。

岩永

そうですね。それから、より若い世代に寄り添った施策を考えるために、20代の社員にも声をかけ、意見を募りました。すると、自分にとっての日常の特別な瞬間として「社会1年目」があげられました。
 

とはいえ、社会人1年目の若者にどうキリンが寄り添うべきなのかがなかなか決まらなくて……。そこで、より詳細なインサイトの把握や施策設計、実施までをオプトさんに手伝ってもらうことになったんです。 

不安を抱える新社会人にキリンが寄り添う
 

ライター岡本

オプト側では、キリンからの相談を受けて、どのようにプロジェクトを進めていったのでしょうか。

竹本

まずは今回のターゲットとなる社会人1年目の20代の若者が何を考え、どのような気持ちで生活しているのかを探りました。
 

若者の間で話題になった書籍やウェブメディア、SNSなどを徹底的に調べたところ、見えてきたのは「社会における働き方が自由になったからこそ、自分なりの道を悩みながら進む若者」の姿です。
 

例えば、今って新卒で会社員になるだけでなくフリーランスになったり、副業で自分の好きなことをしたりする人も徐々に増えていますよね。また、リモートワークも可能になり、働く場所も自由に選べるようになりつつあります。
 

選択肢が増えたからこそ、進むべき道を自分で決めなくてはいけない。自由である一方「この道で本当によいのか」と不安がつきまとう状態で、プロモーション期間はまさに自分の選択の答え合わせをしたい時期ではないか、と。そこで、その不安に対してキリンが寄り添うプロジェクトを企画したらどうかと考えました。 

株式会社オプト 竹本建太さん プロジェクト設計から実行支援までを統括

ライター岡本

不安に寄り添う。具体的にはどのように施策に落とし込まれていったのでしょうか。

岩永

最初は不安を抱える新社会人に対して「大丈夫だよ」とメッセージを送るムービーの作成なども考えました。しかし議論するうちに「押し付けがましい」「嘘っぽく聞こえて、心に響かない」といった率直な意見があがったんですね(笑)。 

竹本

そもそも社会人1年目の春は、新卒研修等で忙しく、新しい生活環境に慣れることに精一杯の方も多いはず。そんな時に、企業が直接メッセージを送っても、受け取ってもらいづらいのではないかという意見もありました。
 

だとしたら、企業よりも身近な存在からメッセージを届けてもらう方がいいのではないかと思ったのです。
 

そこで思いついたのが「#社会人1年目の私へ」と題したnoteコンテストでした。20代の若者に社会人1年目の過去の自分に向けたメッセージやアドバイスをnoteで書いてもらう。そして、その言葉を新社会人の後輩に届けてもらおう、と。
 

キリンはあくまで社会人の先輩と後輩をつなぐ役割に徹することで、押し付けがましくなく、新社会人一人ひとりがリアルに共感できるメッセージが届けられるはずだと考えたのです。 

ライター岡本

そのプラットフォームとして、特にnoteを選んだのは何故ですか?

竹本

自分の想いや経験等を発信する場として20代の若者がnoteをよく利用しているというデータがあり、今回の施策のターゲットとコアユーザーが合致していると考えたためです。
 

TwitterやInstagramなどでももちろんコンテストは実施できますが、投稿コンテンツの消費スピードが速く、投稿内容にも制約があります。ですから、それぞれの想いが表現しきれず、熱量のあるコンテンツになりにくいのではないかとの懸念がありました。
 

noteであれば、プラットフォームの文化としてもエッセイやコラムの長文コンテンツだけでなく、マンガやイラストなどの多様な表現が定着しており、今回のコンセプトに最適だと考えたのです。 

ライター岡本

オプトからこの企画の提案を受けた時は、どう感じましたか?

岩永

ちょうどその頃、キリンの新たなコーポレートスローガン「よろこびがつなぐ世界へ」が発表されました。先輩である20代の若者と社会人1年目をつなぐこの企画の提案をオプトさんから受けた時に、まさにコーポレートスローガンを体現できる企画だ!と思ったのです。
 

キリンの想いがこもっていれば、お客様にとってただ「楽しかった」では終わらない、より共感できる施策になるはず。それが最終的にキリンへの好意形成につながると感じました。 

企業の「伝えたい」ではなく、若者の「知りたい」を大切にした
 

ライター岡本

結果としてnoteコンテストには3,000以上の投稿が集まり大きな反響がありました。成功要因はどこにあったのでしょうか?

清水

一番の要因はやはりテーマ設定だったと考えています。社会人1年目は誰しも通る道であり、人生や生活に密接に関わるテーマです。だからこそ参加のハードルも低く、多くの人が熱量を持って書けたのかな、と。
 

また「新社会人に対してメッセージを送ろう」ではなく「過去の私へのメッセージを送ろう」と募集したことで、押し付けがましい一般論ではなく、より共感しやすい当事者目線の投稿が集まりました。それが読者に響き、SNS上で拡散され、さらに投稿数が増える好循環につながったのだと思います。 

竹本

また、より多くの方に投稿してもらえるよう、情報流通設計にもこだわりました。まずは、クリエイターのお手本投稿を3週に分けて公開。コンテストの存在を広く知ってもらうだけでなく、参考にして記事を書いてもらいやすい環境を整えました。
 

さらに、コンテスト期間中は、キリンビールのnote公式アカウントやTwitterアカウントで、いくつかの投稿をピックアップして紹介。公式アカウントからコメントされたり、他の参加者からコメントが集まったりすることが、参加者のモチベーションアップにもつながったのだと思います。 

ライター岡本

noteコンテストの後に、社会人1年目と様々なゲストを招いたトークイベントも開催しています。その意図はどこにあったのでしょうか。

竹本

noteコンテストはあくまで先輩社会人に対して「当時の自分に言いたいことは何ですか?」」というキリンからの問いかけでした。問いを起点にユーザーそれぞれの思いが詰まったコンテンツが生まれたら、次はさらに踏み込んでより深いコミュニケーションを取れる場を設計したいと考えていました。 

岩永

今回のプロジェクトの目標は、密度の濃いコミュニケーションを通してキリンのファンになってもらうこと。だからこそ、オンラインでのコミュニケーションにとどまらず熱を持ったリアルなコミュニケーションを取れる場としてトークイベントも一緒に行えたらと思ったのです。 

株式会社オプト 清水一輝さん コンテンツ設計や具体的な施策プロデュースを担当

ライター岡本

トークイベントも満足度が高く、アンケートで「キリンという企業が好きになった」と回答した人は全体の97%にのぼったんですよね。

岩永

そうですね。来てくれたお客様の不安や願いに徹底的に寄り添う場にできた実感があります。
 

元々トークイベントは、コンテストに投稿されたnoteの傾向や受賞作品からトークテーマを設定して、インフルエンサーのゲストが自身の体験を元にコメントする形を予定していました。でも、事前に参加者からコメントを集めたところ「~~が不安」「~~について相談したい」といった悩みが多く書かれていて。
 

それを見た時に、来てくれた方がゲストに直接相談でき、双方向のコミュニケーションがとれる場にした方がよいと思ったんです。 

清水

集まったコメントを見て話し合い、結局イベントの開始1時間前に内容をガラッと変えたんですよね(笑)
 

その意思決定の背景には「企業が伝えたいことを押し付ける場」ではなく、あくまで「一人ひとりがリアルに共感できるメッセージを届ける場」にしたいとの思いがありました。キリンは主役ではなくあくまで悩んでいる後輩と先輩をつなぐ役割だから、場づくりに徹しよう、とメンバーで話し合ったんです。
 

結果として参加者の方からポジティブな反応をもらうことができ、当初の目的だった「密度の濃いコミュニケーション」と「特別な瞬間に寄り添う」が体現できたイベントになったのではないかと思います。 

岩永

イベントにはキリンビール入社2年目の社員にも登壇してもらったのですが、彼女の貢献も大きかったと思っています。彼女がイベント参加者の代弁者としてリアルなコメントをしてくれたことで、インフルエンサーとの双方向のコミュニケーションが実現しやすくなりました。彼女のファンになったイベント参加者の方もおり、イベントへの共感をキリンへの好意へうまくつないでくれたように思います。 

企業の姿勢や価値観を反映した施策でなければ意味がない
 

ライター岡本

今回のプロジェクトを通して、若者に向けた企業ブランディング施策において特に大切だと感じたことを教えてください。

竹本

企業が何を大切にしていて、どんな姿勢で生活者と関わりたいのか。そこに紐づいた施策になっていなければ、いくら反響があっても意味がありません。
 

施策に現れる企業の姿勢や価値観に共感が集まるからこそ、最終的に企業のファンになってもらえるはず。だからこそ、最も根本にある「企業の思い」が施策の設計の中心にあることが最も重要だと考えています。 

清水

今回の場合は、コーポレートスローガン「よろこびがつなぐ世界へ」が発表されたこともあり、人と人がつながるための交差点づくりに専念しました。結果として共感が生まれキリンのファンになってくれる方が多かったのだと思います。 

ライター岡本

お話を伺っていると、施策を企画・運用するチーム内で、伝えたい「企業の姿勢や価値観」がしっかり言語化され共有されていることが重要だと感じます。

今城

その通りだと思います。実際、今回のプロジェクトでもコアメッセージやキリンとし社会人1年目の方々と向き合うべき姿勢をミーティングの中で何度も確認しました。
 

例えば「押し付けないって、つまりは寄り添うってことだよね」「寄り添うってどんなイメージだろう。『肩を貸す』わけではなく『隣にいるよ』くらいの距離感なのかもしれないね」など、かなり細かい部分までニュアンスを共有しました。最初はバラバラだった認識も、丁寧な対話を通してすり合わさっていった気がします。 

岩永

また、コーポレートスローガン「よろこびがつなぐ世界へ」を体現する企画にしようと早い段階からオプトさんとすり合わせができたこともよかったと思います。キリンは、企業としてのメッセージを押し付けるのではなく、あくまで後輩と先輩をつなぐ役割に徹する。スローガンが施策の中心にあったことで、その共通認識が持ちやすかったのではないでしょうか。 

株式会社オプト 今城加奈子さん プロジェクト全体で一貫したアートディレクションを担当

ライター岡本

今回のプロジェクトでキリンとして特に感じた手応えはありましたか?

岩永

採用イベントでお話しする機会を頂くと、学生さんから「読みました!」と声をいただくことも多く、若年層のファンを作るという目的に結びついた結果が得られたのではないかと実感しています。
 

実は、これまでnoteで商品PRは行っていたものの、企業ブランディングに関する取り組みは初めてだったので、当初は社内から「noteで投稿を募集してそんなに集まるの?」「イベントは少人数だからインパクトが小さいのでは?」といった意見もでていました。
 

しかし、結果として、noteコンテストもトークイベントも想像以上の方に参加いただき、反響も大きかった。この成功を受けて、社内からは次回の施策への期待も高まっています。
 

これからも、キリンらしさが伝わるような施策を通して、みなさんのよろこびをつなげていけたらと思っています。 

Written by岡本実希

Editorモリジュンヤ

Photographer加藤甫

このカテゴリの記事

CATEGORIES

We are the
Innovation
Agency

OPT WEBSITE