オプトの沖縄コーラルオフィスは、2015年に働き方改革へ着手しはじめました。試行錯誤を経て、2018年には「沖縄県人材育成認定企業」と「沖縄県ワーク・ライフ・バランス企業」の認証を得ています。
その真っ只中にいたのは、沖縄コーラルビジネスサポート部の森永幸代さんと安里みさきさん。改革のきっかけは、オプトCEOの金澤大輔さんからの「自分たちが沖縄オフィスをどうしたいのかを考えよう」という言葉でした。
現在も改革は続いていますが、そもそも金澤さんは「働き方改革」について、どのように考えているのでしょうか。まずはそのスタートを伺いながら、沖縄コーラルオフィスの働き方をどのように進めたのか、そして改革を経て気づいたことを、森永さん、安里さんを交えてお聞きしました。
働き方改革で注目すべきは、“働きがい”である
—— 金澤さんは「働き方改革」の要点を、どのようにお考えですか。
金澤:前提として、働き方改革は、“働きやすさ”ではなく、“働きがい”の改革に取り組むべきだと考えています。
アメリカのギャラップ社が世界各国の企業を対象に実施した従業員エンゲージメント調査によると、日本は「熱意あふれる社員」の割合が6%しかいないと指摘されています。言い換えると、自分の仕事に誇りを持って働いている人が少ないということでしょう。
働きやすい環境を整えることと、仕事にやりがい持って取り組むことは別問題なのです。
—— では、どうすればメンバーの働きがいを創出できるのでしょうか。
金澤:重要なのは、社員それぞれが「どこに働きがいを感じるのか」「なぜ組織にいるのか」「目の前の業務に取り組む理由は何か」を考えられる機会の提供です。
アメリカのリンドン・ジョンソン元大統領がNASAを訪れたときに出会った作業員の話があります。その作業員は楽しそうに床磨きをしており、不思議に思ったジョンソンさんは、彼に理由を聞きました。すると「私は単なる掃除の作業員ではなく、人類を月に送るお手伝いをしているんだ」と答えたそうです。
彼は、自分がその作業をやる理由の意味づけができており、だからこそモチベーション高く働けていた。彼のように、社員それぞれが自分なりの意味を持って仕事に取り組める環境づくりが大事です。
—— 働き方改革は社員の改革でもあると。
金澤:社員のためだけではなく、事業のためであることも忘れてはいけません。事業を伸ばすときに社員が自己犠牲的に働いていては、事業も社員も成長は持続しない。一人ひとりが働きがいを感じていることで、自社の事業や提供しているサービスの質の向上にもつながるという考えです。
しかし、働きがいを生み出す環境を作るときに、トップが決めて進めるだけでは不十分。社員が主体的に考えて動く組織になれないからです。そういう意味でも今回紹介する沖縄コーラルオフィスは、「オプトが目指したいこと」と「沖縄にいる自分たちがどうありたいか」を掛け合わせ、改革を進められたモデルケースになると思っています。
考える余白の創出、働きがいへの理解、横串マネジメント
—— ここからは、森永さん、安里さんも交えてお話できたらと思います。沖縄コーラルオフィスが働き方改革をはじめた経緯を聞かせてください。
森永:2015年に金澤さんから「自分たちが沖縄コーラルオフィスをどうしたいのかを考えよう」と伝えてもらったのがきっかけですね。振り返ってみると、それまでの沖縄メンバーは、東京オフィスから振られた仕事を実行する立場という意識がありました。そこも含めて改革していきたいと考えるようになっていったんです。
沖縄コーラルオフィス ビジネスサポート部 部長 森永幸代
—— どのような組織にしたいと考えていましたか。
森永:実は、沖縄はいわゆる「支店経済」の流れもあり、平成30年1月の時点で県内に約450社のIT企業があります。その中から従業員に選んでもらうためにも、「オプトにいたい、ここで成長したい」と思ってもらえる環境を目指していました。
—— まずは何から取り組んでいったのでしょう?
森永:業務的な余白を作り、メンバーが自身の働き方について考える時間を確保しました。当時は仕事も属人化していて、残業するメンバーも多く、休みを取りたくても取りづらい状態でした。そのためにBPOを活用したり、マクロを作れる方を採用したりして、業務の自動化・効率化を進めたんです。
次に働きがいをテーマにした研修です。金澤さんにも参加してもらい、沖縄メンバーが考えていることや疑問を少人数で対話する機会を設けていきました。
沖縄コーラルオフィス ビジネスサポート部 安里みさき
安里:金澤さんと直接話せる機会を経たことで、自分自身も支社ということではなく、オプトの一員なんだという意識が芽生えました。オプトのビジョンやイズムについて対話する時間もあり、実際に担っている業務がそれらとどうつながるかも理解でき、腹落ちできたんです。
—— メンバーが継続的に働きがいを感じられるように設計したことはありますか。
森永:マネジメント層とメンバーが月1回実施している「1on1ミーティング」ですね。オプトのビジョン・ミッションと、メンバーのやりたいことや成長するために必要なことを定期的にすり合わせる機会を作りました。
さらに、「横串マネジメント」も取り組みました。具体例を挙げると、マネジメント層で行う朝会の内容を変更したんです。それまでは担当部署の進捗のみ報告していたところを、朝会では部署ごとの出来事を共有して語るようにしました。良い取り組みをしたメンバーがいるときは、部署の垣根を越えて、マネジメント層でそのメンバーに声掛けをするようにしたんです。
森永:自分の取り組みで良かったことを、別部署の方からも評価されると、「見守ってくれているような感覚」も生まれて、嬉しかったですね。
—— 横串マネジメントの発想はどこから生まれたのでしょう?
森永:そのマネジメントについては、金澤さんからのフィードバックがきっかけですね。
金澤:私は、部署ごとに分断してしまうのではなく、一段階上のレイヤーから組織を見ることで、課題に対してアプローチできる選択肢が増えると考えています。しかし、当時の沖縄のマネジメント層に話を聞くと、担当部署の話はしても、他の部署の話を含めた「沖縄オフィスとしての全体像」があまり出てこなかった。そこで、マネジメント層同士がもっと連携した方がいいのでは、とは伝えていました。
—— 改革において印象に残っていることを聞かせてください。
安里:マネジメント層が「沖縄コーラルオフィスがどうあるべきか」を喧々諤々と議論している姿ですね。
本気で沖縄のこと、メンバーのことを考えて話し合う姿を見て、私たちも変わっていきたい、変わらなきゃと思えました。
安里:結果的に「沖縄県人材育成認定企業」と「沖縄県ワーク・ライフ・バランス企業」の認定をもらったことです。沖縄メンバーに働きがいを感じてもらうために、何ができるか、そのためにどんな組織であるべきかを考えて、働きやすい制度も導入した。それが客観的にも評価されたのは嬉しかったですね。
働き方改革は「順序」が守られてこそ成り立つ
—— 働き方改革を経て、得られた気づきを教えてください。
森永:あらためて、改革の「順序」が大切だということです。
ツールや制度の導入が先行するのではなく、実現したいことがあって、そのために必要だと思えるものを入れていく。この順序を踏めたのがよかったと思っています。
制度もツールも導入すること自体は簡単。その分、導入して満足してしまいやすいんです。そうではなく、目的に沿って手段を選んでいかなければ。
—— ご自身の働きがいには変化はありましたか?
森永:私にとっては、オプトでの仕事が働きがいを超えて「生きがい」の一つになりましたね。メンバーの成長や生き生きと働いている姿を見ると、これまでやってきたことが間違いじゃなかったと、喜べるんです。
沖縄コーラルオフィス、沖縄クリエイティブオフィス合同での納会時の集合写真。
安里:働きがいはもちろん、オプトのメンバーが家族に近い存在になりました。改革を通して、安心感を持って一緒に仕事に取り組めるようになり信頼関係も築けています。だからこそ会社が好きだと言えますし、貢献したい気持ちも生まれているんです。
実は入社した当初は、目の前のやるべきことに精一杯で、給与に見合う働きをしなければという気持ちが強かったんです。今回の改革を通して、メンバーそれぞれの思いや組織の目指す方向が見えてからは、私自身が会社に求めるものも芽生えました。共感できるビジョンがあり、一緒に働くメンバーがお互いに尊敬し合える環境であることは、私にとって大切だと。
金澤:振り返ると、沖縄オフィスの改革については、メンバーをたくさん惑わせてしまったとも思っていて。BPO先として沖縄オフィスが立ち上がった背景もあり、「本当に彼らの働きがいを創出できるのか、一緒に未来を考えられるのか」と葛藤もしました。一時は、分社化して異なる文化で推し進める可能性も考えたこともあります。
でも、森永さんや安里さんをはじめ沖縄メンバーが、主体的に沖縄コーラルオフィスとオプトの未来を重ねてくれて、僕の考える働き方改革が実現していっている。それは素直に嬉しいと感じますね。
「どんな状況でも変えないこと」を決めれば、変化に適応できる
—— 沖縄オフィスの働き方改革は、オプトにとっても良い事例の一つになりましたね。
金澤:私たちのビジョンである「自分の未来と、個客の未来の、重なるところへ。」は、究極の働き方改革をしようとしているとも言えます。自己犠牲で働くのではなく、自分の未来を重ねて働く。そう考えると、改革のスタートラインは、自社の思いが詰まったビジョンをメンバーに伝えることなのかもしれません。
つまり、働き方改革は「組織風土の改革」であり、その起点になるのはミッションやビジョン。一緒に働く人がそこへ共感し、対話を重ねられていることが、土台の一つになるんです。
—— 働き方改革は、これからの自社のあり方を考えることにつながるんですね。今後は、どういった意識で組織を作っていきたいですか。
森永:これからの企業は、いかに「組織だからできること」を設計していくのが肝心だと思っているんです。フリーランスだけだと強みだけを見てしまったり、受発注の立場や業務内容が先行しやすい関係です。でも、組織だからこそ、メンバーの弱みも知った上で、うまく他の人の強みとも掛け合わせていけるはずです。その関係から生まれる「強さ」があるのではないかと考えています。
金澤:世の中がどんどん変化するからこそ、企業は「どんな状況でも変えないこと」を決めたほうがいい。言い換えると、「これさえ変わらなければ、自社である」と言えるものです。その土台がある企業は変化にも適応していけますから。
極論ですが、オプトや沖縄コーラルオフィスは、メインオフィスや事業ドメイン、あるいは社名だって、時が来れば変えてもいいと考えています。変えないものが多すぎると動きが重くなり、変化に対応しづらい。メンバーが自社や仕事に求めるものも、世の中の変化と共に変わることもあるでしょう。そう考えると、働き方改革をきっかけに自社のあり方を見直すことは、どの企業にとっても重要であり、継続的に取り組むべき課題なんだと思います。